オーストラリアの政局を大きく揺さぶった、新資源税(Resource Super Profit Tax - ”RSPT”)問題が一応解決の方向に向かったようです。
元々、オーストラリアの鉱業に対する課税は、州政府が品種ごとに独自に賦課するロイヤルティと、連邦税である法人税の2本で主に構成されます。ロイヤルティは売り上げに対して賦課されるものですから、利益が出ようと出まいと必ず払わなければならないため、これまでのオーストラリアの資源税制は、利益率の低い鉱山ほど実効税率が高くなる、ある種の逆累進性を持っていました。

ラッド前首相が唱えたRSPTは、この州政府ロイヤルティを連邦が鉱山業者へ一律キャッシュバックして逆累進性をキャンセルし、その上でGross Profitの内、「適正な利益を超える部分」="Windfall Profit"に対して40%の課税を行う、というものでした(その上で賦課される法人税は現行30%から28%に減税)。Windfall Profitは、適正なCapital Recoveryを超える部分ということなのですが、投下資本利回りの内、オーストラリア10年国債の利回り(2010年7月現在約5%)を超える部分として定義されていました。
一般に鉱山というものは、品位がよく、採掘深度が浅く、港までの距離が近い、即ち開発・生産・出荷コストが低いところから順番に開発されるものですから、古くから操業している鉱山ほど基本的に収益力が高く、RSPT課税対象であるWindfall Profitが大きくなります。南オーストラリア州で銅・金・ウランを産出するOlympic dam鉱山や、西オーストラリア州で鉄鉱石を産出するピルバラ地区鉱山群等の有名プロジェクトでは、昨今の経済環境下においてもROE 50%を軽々と超える利益を産んでいる鉱山が多くあります。そして、そういった鉱山は、BHP Billiton、Rio Tinto、Xstrata等、在豪資源メジャーのほぼ独占下にあり、RSPT構想の主眼は、それら資源メジャーの独占利益を狙い撃ちにすることです。そしてこの財源の一部は、新興の中小資源会社への探査活動補助等にも使われることになっていました。労働党政権らしい「金持ちいじめ」の政策と言えるでしょう。

当然、資源業界(の既得権益層)は猛烈なネガティブキャンペーンを開始しました。Rio Tintoのトム・アルバニーズCEOに至っては、
"This is my number one sovereign risk issue on a global basis"(こいつは世界最大のカントリーリスクだ)とまで言い放ったものです。彼らが鉄鉱石プロジェクトを有するギニアのクーデターや、Oyu Tolgoi銅プロジェクトを進めるモンゴルの矛盾だらけ資源法制と比べてもずっとヤベーぜ、左翼政権たまんねえよ、仕事にならねえ勘弁してくれよというわけです。
これら資源業界の反発により、2007年末の政権交代来、元々低落傾向であったラッド政権の支持率は、
「スツーカ急降下爆撃機のごとく」悲鳴のサイレンを上げて下落、今年内の総選挙を控える労働党はこのままでは選挙を戦えないと判断してラッドを引きずり下ろして女性の副党首を担ぎ出し、6月24日、ギラード新内閣の誕生となりました。何やどこかで聞いたようなお話ですね。
オーストラリアの状況がなにげに日本に似ている件 - 厭債害債
http://ensaigaisai.at.webry.info/201006/article_8.html日本と似ているというのは、
・ もともと長く続いた別の政権をひっくり返して誕生した政権が比較的短期間で不人気になったこと
・ 不人気の理由のひとつが「唐突」な制度の導入だったり、公約の不実行だったりしたこと(つまりスキャンダル等ではないということ)
・ 選挙が近いため、与党が顔を変えたいと言う強い動機に支配されていること。
新内閣発足と同時に、資源業界はTV広告等のネガティブキャンペーンを即停止、昨日7月2日、Windfall ProfitのThresholdを10年債利回り+7%ポイント(2010年7月現在、約12%)とし、RSPT税率を40%から30%に引き下げ、対象品種をほぼ全鉱物から鉄鉱石・石炭のみに限定するという、Minerals Resource Rent Tax (MRRT)が発表されました。

この間、新政権発足からわずか1週間強です。ネガティブキャンペーンを長引かせてずるずる支持率を低下させるなどの愚鈍さが全く見られないあたり、ギラード新首相の手腕にはかなりのものを感じさせられます。これをもって資源メジャーが豪州の政治すら掌握しているという、ちょっと陰謀論チックな新聞記事も見受けられたのですが、まあ僕の手元の採点(計算)では、双方痛み分けというあたりが実態のように思われます。
【おまけ】
日本との違い、というものを少し考えてみました。
・オーストラリアの連邦財政収支は、2008年の世界経済危機以降赤字化しているが、規模的には僅かなものであり、2008年までプライマリーバランスは過去長らく黒字。日本とは健全性のレベルが雲泥の差である。
・鉱山業は基本的にその土地以外で行うことは不可能であり、某自動車工場や某小型モーター工場と異なり、いくら政府がいじめたところで、国外へ逃げ出すことはできない。基本的にやりたい放題であって、選挙さえ終わってしまえば再び別の課税案を持ち出すのも勝手であり、どうしても言うことを聞かないなら、究極的には接収してしまえばよい。